THINKING FOOTBALL
佐藤俊太郎のコラム
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第7回 イチロー語録/イチローの言葉の魅力
ポーツファンだけに留まらず、一般の人々にとってもイチローの存在は日本人ならば誰しもが知っている。 一人のプロ野球選手であるイチローは、老若男女を問わず、多くの人々の心を動かす。 彼のプレーや発言、一挙手一投足が多くの感動を生む。まさにスポーツ選手の特権である。 特にイチローほどのスーパースターともなれば、その影響力は絶大だ。

 1991年に日本のプロ野球界に入ったイチローだったが、当時はまだ無名とも言える選手だった。 意外にもドラフト4位での入団で、登録名も”鈴木一朗”となっていた。 現在の”イチロー”となったのはオリックス・ブルーウェーブの監督を務めていた仰木彬監督(故人)の勧めだった。 入団当初は2軍からのスタートとなったが、4年目にして1軍に定着すると、その年に210安打の日本記録をたたき出し、 首位打者の座を獲得した。 その後、なんと7年連続で首位打者の座をキープし続け、”イチロー”の名を日本中に知らしめた。

 2001年にアメリカ・メジャーリーグのシアトル・マリナーズに移籍してからも彼の躍進は留まることはなかった。 世界最高峰のリーグで着々と結果を残し、ここでも首位打者の栄冠を手にした。 そして2004年、84年もの間破られることのなかったジョージ・シスラーの年間257安打という記録を抜く偉業を成し遂げた。 当然、これは日本人としては初となる快挙であり、そこにたどり着くまでの道のりは容易ではなかったはずだ。

 「世の中の常識を少しでも変えるということは人間としての生き甲斐でもある」と発言している彼にとって、周囲の不安やプレッシャーは雑音でしかない。 自分が正しいと思って納得した道をただひたすらに突き進む。 それが彼のスタイルであり、魅力である。 貪欲なまでにプロ野球選手としての自分を見つめ、常に周りの期待以上の結果を出してきた。

 しかし、こういった大記録は突然生まれたり、ましてやまぐれで生まれたりするものではない。 年間安打数の最多記録を塗り替えた試合後のインタビューでは、 「ちいさなことをかさねることが、とんでもないところに行くただひとつの道」とコメントしている。 傍から見ればなんでもないようなことでも、彼は一歩ずつ、着実にこなして前進していく。 この根気強さこそが成功への秘訣といえるだろう。

 もちろん、名選手であるイチローでもスランプや不調のときはある。 彼にとって非常に難しいシーズンになった2005年を振り返り、このような発言を残している。 「思うようにいかないときに、どう仕事をこなすかが大事です」。 さらには、「ヒットを続けて打ったとしても、過去のものだとふりはらえれば、次の打席に集中できる」とも語っている。 一度成功を体験してしまうと、それを持続させることは難しい。 逆に失敗してしまえば、次に取り組むときにより集中できるものだ。こういった発言から、いかに彼がメンタル面のコントロールに気を使っているかがわかる。

 イチローの秘密を探るべく、メディアは数多くの質問を投げかける。 そういった問いかけに対し、彼が返す答えは一般の人々には創造もつかないようなものだったりする。

 例えば、「知らないことに出会ったとき、自分はまだまだいけると思う」というように、 一般的には「知らないことをなくしたい」と思いがちだが、これとは真逆の発想である。 ヒットに関しても、「どうすればヒットを打てるか」ではなく、どうして凡打になるのか、という考え方をするという。 彼の心理は実に特殊で、それでいて説得力がある。実に不思議で面白い人間である。

 この他にも、彼の言葉は非常に興味深いものが多い。 以下はイチローが小学6年生のときに書いた作文である。

 「ぼくの夢は一流のプロ野球選手になることです。 そのためには、中学、高校で全国大会へ出て、活躍しなければなりません。 活躍できるようになるには、練習が必要です。ぼくはその練習にはじしんがあります。 ぼくは3歳のときから練習を始めています。3〜7歳までは半年くらいやっていましたが、 3年生の時から今までは365日中、360日ははげしい練習をやっています。 だから一週間中、友達と遊べる時間は、5時〜6時間の間です。 そんなに練習をやっているんだから、必ずプロ野球選手になれると思います。」

 この作文で最も驚かされるのは、彼が想像を絶する量の練習をしていたことではない。 12歳にして目標が明確で、それを達成するためにはどうしたらいいかを分析し、理解しているということに驚かされる。 そして目標に対する意志が強く、決意が感じられる。 「モチベーションは野球が好きだということ」との言葉通り、純粋に好きな野球だからこそ、 深い探究心が生まれてくるのだろう。

 人々がイチローに惹かれるのは、彼がしっかりとした独自のスタンスやスタイルを持っているからではないだろうか。 それは周りの人間とは違う、独特なものであり、長年かけて培った経験によって確立してきたものである。 そして常に自分の「形」を模索し続け、変形していく。 これは現状に満足せずに、今よりも一回り大きく成長した自分を追い求めているからに他ならない。  「50歳のシーズンを終えたときにね、こう言いたいんですよ。 『まだまだ発展途上ですから』って」。 この発言には飽くなき向上心と、ベースボールという競技をひたすらに追求する姿勢が表れている。

 イチローという人間と、彼の発する言葉から得られるものは限りなく多い。

参考文献
『夢をつかむイチロー262のメッセージ』 ぴあ
『目標を達成するための思考法 イチロー頭脳』 児玉光雄 東邦出版


2006.2.15 佐藤俊太郎

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